「小さいおうち」

小さいおうち (文春文庫)

小さいおうち (文春文庫)


山田洋次監督が映画化し、黒木華ベルリン国際映画祭銀熊賞を取ったことで話題になりました。禁断の恋愛ものというイメージで本を手に取りましたが、ちょっと違いましたねー



私はこの本は二通りの読み方ができると思いました。ひとつは戦前の庶民の昭和史としての読み方。

戦後に生まれた者としては、小説に出てくる甥っ子の健史と同じで戦前の昭和初期はずっと暗い時代だったんだろうと思っていました。でも、昭和12年くらいまでは、景気が良くて明るいときもあっただとか、東京オリンピックが決まって歓喜しただとか。

母が昭和13年生まれなので、その時代に思いをはせて興味深く読むことができました。ただその後の歴史を知っている者としては、話が進んでくるにつけ苦しくなってきちゃうけどね。



もうひとつの読み方としては、仕事にやりがいをもつってどういうことだろうということについて。

仕事ってお金のためだったり、自分のスキルアップのためだったりすることもあるけれども、本来「他人のために仕事をしている瞬間」が一番やりがいがあるんじゃないかとかねてから思っていました。

主人公の女中タキは奥さまの時子に尽くすことで自分のアイデンティティを見出していきます。それだけ、主人に惚れこみ一所懸命になれるって職業人として一番幸せなことです。そういう出会いが簡単に訪れるわけではないのは、今も昔も同じだけれども。

タキの問題の行動についても、複雑な思いだったんだろうなということが慮れます。職業人としての感情、女性としての感情、色んな思いが交錯していたんだろうと思います。


ただの不倫ものではない良作です。