「乱紋」上・下巻

新装版 乱紋 (上) (文春文庫)

新装版 乱紋 (上) (文春文庫)

新装版 乱紋 (下) (文春文庫)

新装版 乱紋 (下) (文春文庫)

放送中の大河ドラマの主人公「江」の生涯を描いた決定版!との宣伝文句。しかし、大河ドラマとは全く逆をいくような描き方で、ある意味すごく面白かったです。

まずドラマの浅井三姉妹は仲が良いが、この小説の三姉妹は仲が悪い!というか、ほとんどいがみ合っている。

そして主人公「江」はドラマのような自分から行動するおてんば娘ではなく、何を考えてるかわからないほど無口でおとなしい。

大河ドラマ「江」と同じ脚本家の手による「篤姫」は一応、宮尾登美子の小説を原作としていたけど(内容はかなり変わっていたが)、今回はこの決定版!が原作にはならなかったわけで、読んでみるとその理由がよくわかります。

仲の良かった姉妹が引き裂かれて悲劇のクライマックスを迎える。主人公の「江」はそんな過酷な運命の中でも、時には権力者に意見したりして自分の意思を持つ・・・みたいに描きたいでしょうからね、大河ドラマでは。

この小説はそんなドラマとは全く関係なく、お江の生まれたときからの侍女「おちか」の目線で進んでいきます。どこか女性週刊誌のようなノリで。宮尾登美子の小説のような堅苦しいところが全くないのが永井路子風なのか。

とにかくお茶々が怖い。実の妹に対する思いが本当にああだったのか、にわかに信じがたいほど。お初も相当クセがある。そして、お江はボンヤリしているだけなのか、はたまた大物なのか・・・

そんな彼女にハラハラさせられる「おちか」の右往左往ぶりが笑える。「おちか」のほか、「ちくぜん」や「おたあ」など脇の架空の登場人物に味があります。ある意味お江を支えた彼ら彼女らが主人公だったのかもしれません。

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「あとがきに代えて」に興味深いことが書かれていました。「三姉妹の仲よし物語に作り上げることも可能だが、〜中略〜『戦国』という時代の中で生きることは何か、を基本に、彼女たちをみつめたかった」というところ。

3人は仲の良い姉妹だったはずだ、と私自身も思いたいのですが、もしかしたら後世の人間のそんな甘い幻想を打ち砕くような時代が戦国時代だったのかもしれないと想像を膨らませることができました。