「小暮荘物語」

 

木暮荘物語 (祥伝社文庫)

木暮荘物語 (祥伝社文庫)

 

 「世田谷」と聞くと高級住宅街のイメージをもつ人が多いかもしれないけれど、私が子供の頃は下町的な雰囲気を残す一角も残っていました。今でも、世田谷代田あたりには、この物語の舞台「小暮荘」のようなおんぼろアパートも残っているのかな。

個人情報保護の時代にこのアパートは壁が薄く音が筒抜けで、プライバシーも何もあったもんじゃない。覗こうと思えば、床板を外して階下の部屋を覗くこともできる!

 

そんなアパートに住む人たちのお話なのですが、一番印象に残ったのが「浮かれポンチ」の女子大生。この子がまさに上の部屋の住民の男から覗かれていたわけですが、覗かれていると知った彼女の反応がおもしろい。

都会に住む人たちがみんな寂しいわけじゃないと思うけれど、心の中のモヤモヤを案外、誰かに気付いてもらいたいと思っているのかも。こんなに他人と深く関わることに消極的になりがちな時代でも。

人って外面だけ見てても本当はどういう人かわからない。深く関わっていかないと、その人の本質は絶対にわからないのだと思います。そんなことに気付かされる物語。