原爆文学の名作「黒い雨」

黒い雨 (新潮文庫)

黒い雨 (新潮文庫)

8月に映画「夕凪の街 桜の国」を観て、原爆についてもっと知りたくなり、井伏鱒二の名作「黒い雨」を読んでみました。

広島の一被爆者が、被爆数年後に当時を振り返りながら「原爆日記」を清書していくスタイルで、姪の矢須子の原爆病の発病と進行が同時進行で描かれています。

目の前で死にかけている人がいても、見て見ぬフリをして通り過ぎるしかなかった・・原爆投下後のリアルな描写を読み進むにつれ、「夕凪の街」の皆実さんの「生きていてもいいのだろうか」という重い問いかけが少しだけ理解できたような気がしました。

日本人は他の国の人に比べれば、「原爆」の知識はあるはず。若い人たちも夏になれば原爆をテーマにしたドラマや特集番組を観る機会もあるし、修学旅行で広島や長崎に行ったりもする。そういう下地があれば「夕凪の街 桜の国」のような、悲惨な原爆の描写のない物語でも、心にグサッとくるものもあるでしょう。

でも、原爆のことをあまり知らない人は、やはり「黒い雨」のような残酷な描写もある原爆小説を初めに読んだ方がいいのでは・・・辛いけど、事実を知ることは必要なことだから。

そういう意味で、この作品は、外国の人や未来の日本人にも広く永く、読み継がれるべき名作だと思います。

それにしても、60年以上も前にこんな恐ろしい爆弾が作られていたなんて、にわかに信じられない。技術が発達した現代の「核」ってどれほどの破壊力があるものなのだろう。そんな「核」を保有している国が複数存在するという現実・・・